時雨沢恵一 『キノの旅』第1巻第1章「人の痛みがわかる国」

さて、前回でいったん流れが切れたんで、
新しくまた書き散らしていこうと思います。


まがりなりにも、誰かと同じで1日1000字計画なのかもしれないこれは…


昔この本読んで、すっごく惹かれたんだよね。懐かしい。
電撃文庫で最初に触れたのは、「時空のクロス・ロード」シリーズ。
当時「ライトノベル」なんて言われ方していなかったけれど、
傾向としてSF的な、設定重視のお話が電撃文庫にも多かったと思う。
キノとアリソンでだいぶ違うように、
僕が読んだのだったら、9S(ナインエス)あたりからなのかな、だんだん、恋愛が絡んだり、俗に言う「セカイ系」だったり、「クロス・ロード」や「キノ」から離れていった。
で、「シャナ」とか「ハルヒ」とかのお出ましのわけだ。
派生して有川浩桜庭一樹がいるのがすごいところだけれど(笑)
でも、中学生以来電撃文庫ほとんどノータッチだったから…
そういう意味で、自分的に「キノ」は、第1次ライトノベルの最高峰。



今日はこの章だけを4回読みました。他、読みませんでした。
こんな変な読み方していると、だいぶ面白いことに気づけるという…



あらすじ…覚えてる人いない?
立ち寄ったのは機械だらけの国。テレパシーができるようになってしまった人間が細々と暮らしている話。

この「国」の色

音楽と違って動画あげられないし、雰囲気を覚えてくれている人に向けて書いてみようと思います。


第1行目。「緑の海の中に、茶色の線が延びていた。」


1行目からして、すでに色の記述があります。
まあ、目立つところで色が使われているから注目しようと思ったんだけど、
1行目の記述がこれだってことは、かなり意識されているんじゃないかな。


情景が頭に入るんですよね、色が出てくると。
キノのジャケットが「黒」だったり、「国」の外では、色がすごく豊かに描写されています。



ところが、退廃的な「国」の中に入ると、キノはまだどんな様子か分っていないし、
読者もどんな「国」だかわからないから、?な状態。手探り手探り。
色の表現の頻度も極端に下がっている。
一度明確に色が出てきます。


P.20「その先は、森だ。緑しか見えない。」


この表現では、緑がかなり否定的に…嫌そうに書いてあるような気がします。
なんだか分らないけど機械だらけの「国」に、この森は薄い緑ではなく濃い影のように映ったんじゃないでしょうか。マイナスイメージが強いと思います。


城壁や機械、建物といったイメージから、とにかく無機質な、非人間的な印象を受けるが、そういった「モノ」に対する色は、一度も出てこない。
それはまさに、無色だったんじゃないか。こんな記述がある。


P.21「キノはスパゲッティによく似た食べ物と、何の肉か分からないステーキと、見たこともない色のフルーツを頼んだ」


この「国」全体が、見たこともない色≒無色だったんじゃないだろうか。
色の記述がほとんどないことに加え、「色がない」ことがわざわざ記述されているので、可能性は高いと思うんです。
「国」の退廃的・無機質性を、「無色」で表してると思いませんか?(笑)



地図が出てきます。ここも印象的。
P.23 「町の中央部には『中枢・政治エリア』と書かれた円形のエリアがあり、薄い赤で塗られていた。南にはかなり大きな湖が水色で書いてあった。他には茶色で塗られた、『工場・研究所』エリアが町の北のはずれにあった。そして、それら以外は全て、薄緑色で塗られた『居住エリア』だった。それは町の面積の半分以上になる。」


湖以外、「塗られた」と受け身で書かれているのを突っ込むのは詳細すぎるだろうが…
地図の中にはちゃんと色があるんですね。地図は昔のある一時点を記録するもの。
地図が「テレパシー」以前に書かれたものであるとするならば、
「国」にはかつては色があったといえるのではないでしょうか。


しばらく人が見当たりません。
街も相変わらず無色です。


ところが、人と遭遇するシーンが後半、あるんですよね。
P.31「男が跳ね上がって驚いた。キノとエルメスに振り向く。三十歳ほどの、黒縁の眼鏡をかけた男だった。」


ここは自分でも非常にこじつけだと思うが
ホテルのホールの大理石が輝いていたっていう記述があって、ここも色とするのなら、
大理石の白(無色的、角ばった、無機質、非人間的)と、黒縁の眼鏡(着色、人間的)が対比するんじゃないかと。ま、解釈は、自由だー!って。いぬいさんかw



そして、最後に、「無色」だった色に変化がおこります。



この男が徐々にこの「国」の種明かしをしていく過程。
その一番最後、キノに一緒に暮らさないかと突然提案したシーン。
そっけなく断ったキノに対して、男。


P.43「しどろもどろになった。彼の顔は真っ赤だった。」


ここにはじめて、人間的な着色がなされているんじゃないかなぁって思いました。
「国」の外で自然の記述として自然とあった「色」と、
同じような感覚の「色」を、最後にこの「国」は取り戻したんじゃないかなぁとも読めますし、
先ほどの大理石の「白」や、地図にあった「薄い赤」ともまた違った色なんじゃないかと思います。


なにしろ、真っ赤っていうのはそれ以前の色を消すくらい濃い色ですから、
最後にこの「国」は着色がなされたのかもしれません。



ちなみに、この章の扉絵は墓場を連想するような、「暗い青」と「暗い緑」でした。


そして…イラストレーターさんの名前は「黒星紅白」さんでしたね。
今日全色出てきました!

P.S.

ぬぬ、もう2000字を大幅オーバー。
「音から読む方法」と「英文の章題"I See You"について考える話」みたいなことも書きたかったんだが…延々とかかりそうなのでやめ。


この章、アニメあったよね、確か。
あった。これだ。


http://streaming.yahoo.co.jp/c/y/bch/20556/2055600001/


まだ見ていませんが。
アニメだと、色を描かざるを得ないから、違った意味で広がるかもしれませんね。
見たらまた書くかもしれません。


しっかし、読み方を変えると怖い話ですね、ひとつひとつが。